食べる人の健康寿命を延ばす虎の巻
<72歳以上の男性高齢者、75歳以上の女性高齢者、及び同年齢の高齢者のいる家庭用>
Ⅰ はじめに
1.日本人の平均寿命と健康寿命
「ピンピン コロリ」とか、「死ぬまで現役」を、願い、祈り、想う極楽とんぼは大勢います。ここにも、そちらにも、あちらにもいます。
ところが、平均寿命は、男性81.47歳、女性87.57歳です。一方の健康寿命は、男性72.68歳、女性75.38歳です。この差の男性での8.79年間や女性での12.19年間は、日常生活が不自由になり、自立して生活ができない要支援や要介護状態になっている期間です。神頼み的なことを言っている暇は、平均的な健康寿命を過ぎた高齢者にはなさそうです。この期間を短縮する努力を、他人ごとにしないで自分ごととして、家族の協力も得て、明日からでも始めなければなりません。
コロナ禍の昨年11月、計画入院で左右の冠動脈に4本のステント留置術を受けた患者に渡された患者手帳の「日常生活への注意事項」は、「1.禁煙しましょう。2.お酒は飲み過ぎないでほどほどに。3.適度な運動をしましょう。4.バランスの取れた食生活を心がけましょう。5.水分をこまめにとりましょう。6.ストレスはためずに上手に付き合いましょう。7.休養と睡眠をとりましょう。」でした。これらは、患者が狭心症、高血圧症及び高脂血症を患い、18年間薬物治療と同時に受けてきた生活指導でもありました。
またこれらは、2000(平成12)年にスタートし、2013(平成25)年に第二次として改訂された、十か年計画の「健康日本21」(2023年まで延長)の具体的目標に沿ったものでした。ちなみに、国民の健康増進のための基本的な方向のうちの「栄養・食生活、運動、休養、飲酒、喫煙、歯・口腔の健康に関する生活習慣の改善」に係わっては、
1) 適正体重の維持
2) 適切な量と質の食事をとる(主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を一日二回以上がほぼ毎日、食塩摂取量の減少、野菜と果物の摂取量の増加)
3) 活発な身体活動(運動習慣)
4) 睡眠による休養
5) (生活習慣のリスクを高めない量の)飲酒
6) 喫煙(やめたい者がやめる)
7) 歯・口腔の健康、 が掲げられています。歯・口腔の健康を除いて見比べると、具体的な注意や改善レベルには強弱や多少はありますが、担病者への日常生活注意事項と、未病者への健康増進のための基本的な方向がほぼ同じなのには驚きました。
このことから、毎日の生活習慣を、特に食生活習慣を整えると、健康寿命は延ばせて自立した日常がより長く送れると、解釈しました。勿論、“言うは易く、行うは難し”ではありますが、 努力する価値はあります。
2.健康寿命を延ばす栄養と食生活
介護が必要となる原因は、国民生活基礎調査によると認知症が18%、脳血管疾患が16%、高齢による衰弱が13%、骨折・転倒が13%、心疾患4%、呼吸器疾患3%、がん(悪性新生物)が3%などです。脳血管疾患と心疾患とを合せると20%となり、認知症を上回る最大原因となります。従って、これら両疾患の予防と進行を遅らせることは、健康寿命を延ばす最重要策となります。
そこで関連するいろいろなキーワードでインターネット検索して調べました。両疾患の原因はいろいろありますが、主な原因はいずれも動脈硬化です。医学会ベースで公開されている情報を検索して見つけ出した教科書が、日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」(2022年版、新しいエビデンスに基づいて改訂されてきた最新版。同学会会員でなくても閲覧可能)です。最新版では診断や治療だけではなく、食事療法のところ(78頁~101頁)の「予防のための食事」(表3‐5)で、食品摂取の指針(7項目)をも示してくれています。
また、同学会は、e-bookでもって「The Japan Diet」(2020年)を公開しています。この中では、動脈硬化の予防効果が期待される食事として、①基本は、どのリスク病態でも、減塩した日本食パターンの食材で、主食、主菜、副菜の料理をそろえることとし、更に②食材について、ガイドラインより分かりやすく改善する方向を推奨してくれています。
上記ガイドラインの食事療法のところの表3—5の2項から6項までと、The Japan Dietの該当する部分とをまとめて次表に整理しました。なお、1項の適正体重を維持、並びに7項の食塩摂取量を6g/日未満は、①の基本に整理するのが適当と考え、次表からは省きました。
仮称 『改善が推奨される食材表』
A 摂取を控えたい食品
1) 動物脂(バター、牛脂、ラード)、ココナッツオイル
2) 肉の脂身(鶏肉の皮、ひき肉、霜降り牛肉)、肉加工品(ベーコン、脂の多いハム、ソーセージ)
3) 鶏卵(特に黄身)、内臓類(レバー)
4) 砂糖や果糖を含む加工食品(清涼飲料・菓子など)、アルコール飲料(25g/日以下に)
B 積極的に摂取~摂取を増やす食品
1) 魚(特に青魚) ⇒積極的
2) 大豆、大豆製品(納豆、豆腐、高野豆腐など) ⇒積極的~増やす
3) 緑黄色野菜を含む野菜 ⇒積極的~増やす
4) 海藻、きのこ、ナッツ類、こんにゃく⇒積極的~増やす
5) 精製された白米や小麦粉を減らし、未精製の穀類、雑穀(玄米、七分づき米、麦飯、雑穀、
ライ麦パン、全粒粉パン、そば) ⇒増やす
C 適度にとりたい食品
1) 甘みの少ない(果糖の少ない)果物、乳製品(低脂肪)
以上を言い換えると、改善した食材を含めた食材で、減塩した主食・主菜・副菜の料理をそろえた食事にすると、リスク病態の如何にかかわらず動脈硬化が予防でき、これは脳血管疾患と心疾患の予防につながり、結果的に要介護になる最大原因が減じて、健康寿命を延ばすことができます。
3.コロナ禍、免疫力アップも加味
コロナ禍の3年間、コロナワクチン接種を受けるだけではなく、ウイルスから身を守るために、“免疫力を落とさない生活習慣は”とか、“免疫力(抵抗力)を上げる食べ物は何か”など、インターネットで時々調べていました。前述のように要介護原因の認知症、高齢による衰弱、及び骨折・転倒を除くと、要介護の第二の原因は呼吸器疾患、第三はがん(悪性新生物)です。
呼吸器疾患そのものの原因の多くは肺炎や気管支炎や肺胸膜炎などの呼吸器の感染症です。感染症の予防策といえば免疫力アップですので、これにフォーカスしてインターネットで調べました。企業の広告や情報はパスして、それ以外の数10報の情報を閲覧しただけで、その後に続く大量の情報は“推して知るべし”です。それにしても、地方公共団体、医療法人、公益法人、NPO法人、株式会社などから発信・公開されている免疫力アップ・上げる・高める情報のあまりの多さにこれもまた驚きました。ところが残念ながら、免疫力をアップする具体的な食品はこれ、といえる科学的なデータや定説はなさそうです。なお念のため、免疫力アップとがんを予防する・治す食品について出版物も本屋さんなどで調べましたが、それらしいものは見つけられませんでした。
それらの中で一番信頼できると思われる、公益財団法人長寿科学振興財団の健康長寿ネットの「免疫力を高める食事」をここでは参考にすることにしました。健康長寿ネットでは、
1) 腸の状態を良くする
2) 栄養バランスの良い食事を、規則正しく
◇ヨーグルトなどの発酵食品、食物繊維やオリゴ糖などの栄養素は、腸内細菌叢を改善する
◇良質のたんぱく質(豆腐、肉、乳類の)、ビタミンA、Eなどのビタミン類、亜鉛、セレン、銅、 マンガンなどのミネラル類、コレステロールなども、免疫細胞の働きをよくし、また免疫細胞の強化に必須の栄養素
◇ポリフェノール、n-3 不飽和脂肪酸、抗酸化作用のあるビタミンC、E、β‐カロテンなども免疫力を高める効果が期待できる
3) ある特定の食品を食べると免疫力が高まるというわけではないが、おすすめ食品は、きのこ、発酵食品(納豆、みそ、しょうゆ、漬物、ヨーグルトなど)、 としています。
以上からは、免疫力アップのためには、きのこと発酵食品(特に、納豆とヨーグルト)を積極的に毎日とればよさそうです。
Ⅱ 食べる人の健康寿命を延ばす我流又は我家流虎の巻
1.改善計画を作るにあたって
食生活を除く生活習慣一般の改善は、努力した本人のみのメリットですが、食生活の改善は、料理を作った人を含めて食べる家族にメリットがあります。独居でない限り、作る人、食べる人及び食べさせられる人の理解と協力が、前提として必要です。
平均的な健康寿命を超えた72歳以上の男性及び75歳以上の女性の皆さん、高齢者のいる家庭の料理を作っている皆さん、残っている健康寿命を1年でも10年でも延ばすための改善計画を立て、実践しませんか。
改善すると決まれば、食生活の基本及び食材について、前述の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」及び「The Japan Diet」をベースに、免疫力アップを加味して、現状より改善する方向で具体的に次項2.の虎の巻のひな型を活用して計画を立て、文字化しましょう。
なお、作成にあたっては、改善の程度をどのレベルにするかが一番重要です。特に、国民一般に啓発されている「健康日本21」の目標レベルをどれだけ超えられるかです。更に、学術団体の推奨レベルにどれだけ近づけるかです。即ち、仮称「改善が推奨される食材表」にリストされている食品(食材)ごとにそれぞれの推奨レベルにどれだけ近づけるかです。低過ぎず高過ぎずで、実行可能なレベルは何処なのか、担病者でも難しいところです。ましてや未病者では、と思われます。
改善を文字化したら、我流又は我家流虎の巻の完成です。あとは実践あるのみです。前述の患者は、折角インプラントしたステントの有効利用と健康寿命を延ばすために自分用の虎の巻を作って、23年1月から始めています。
2.食べる人の健康寿命を延ばす虎の巻 (ひな型)
第一条 基本は、①これまで以上に減塩した<例えば、「 (食塩摂取量の目標は6g/日未満)」と適宜追加規定する>、
②栄養バランスのとれた主食、主菜、副菜を組み合わせた食事を<例えば、「 1日2回以上とるが、ほぼ毎日」などと、規定する>とする。
更に、副菜、汁、果物、ヨーグルトなどを<例えば、「 5品/日増やす。」と追加規定する>
<適正な体重を維持するための計画を、適宜追加規定する>
第二条第一項 料理に用いる食材は、ネガティブリスト及びポジティブリストの規定に従う。
(1) 次のネガティブリストの食品は、それぞれ、摂取を控えるか、原則とらない。 <以下の食品ごとに決定して、明記する>
① 動物脂(バター、牛脂、ラード)、ココナッツオイルは、<例えば、「 原則とらない。」と規定する>
② 肉の脂身(鶏肉の皮、ひき肉、霜降り牛肉)、肉加工品(ベーコン、脂の多いハム、ソ ―セージ)は、<例えば、「 摂取を控える。」と規定する>
③ 鶏卵(特に黄身)、内臓類(レバー)は、<例えば、「 原則とらない。」と規定する>
④ 砂糖や果糖を含む加工食品(清涼飲料・菓子など)、アルコール飲料(25g/日以下に):<例えば、「 砂糖や果糖を含む加工食品はこれまでより2割控える。アルコール飲料は当面2合/日(日本酒換算) 以下に控える。」と規定する>
<追加① 醤油、味噌、ソース、塩などの塩味調味料は、減塩目標値に近づけるために、例えば、「 これまでより2割控える。」などと、追加規定する>
<追加② 更に追加する食品があれば、適宜追加規定する>
(2) 次のポジティブリストの食品は、それぞれ、積極的にとるか、増やすか、又は、適度にとる。 <以下の食品ごとに決定して、明記する>
① 魚(特に青魚)は、<例えば、「 これまでより5割増しで積極的にとる。」と規定する>
② 大豆、大豆製品(納豆、豆腐、高野豆腐など):<例えば、「 特に納豆は毎日積極的にとる。そのほかの大豆、大豆製品はこれまでより2割増やす。」と規定する>
③ 緑黄色野菜を含む野菜:<例えば、「 緑黄色野菜はこれまでより3割増やす。そのほかの野菜はこれまでより2割増やす。」と規定する>
④ 海藻、きのこ、ナッツ類、こんにゃく:<例えば、「 特にきのこはこれまでより2倍増しで積極的にとる。そのほかの海藻、ナッツ類、こんにゃくは、これまでより1割増やす。」と規定する>
⑤ 精製された白米や小麦粉を減らし、未精製の穀類、雑穀(玄米、七分づき米、麦飯、雑穀、ライ麦パン、全粒粉パン、そば):<例えば、「 白飯を1回/週減らし、その分未精製のそばを増やす。」などと、規定する>
⑥ 甘みの少ない(果糖の少ない)果物(レモン)、乳製品(低脂肪)は、<例えば、「 3回/週以上とる。」と規定する>
<追加① 発酵食品は、例えば、「 特にヨーグルトはほぼ毎日積極的にとる。」などと、追加規定する>
<追加② 更に追加する食品があれば、適宜追加規定する>
第二条第二項 献立を考えるとき、買い物をメモするとき、調理するとき、外食をするとき(メニュー選びや食べ方)などに、改善内容を実践しやすくするために、前項の内容はできるだけ早く暗記する。
第三条 <決意の程や評価の時期や一部変更などについて、適宜規定する>
<終わりには、例えば、「2023年1月 82.5歳の担病者、山本芳子」などと、作成年月及び作成者、を明記する> (完)